今回のテーマは「遠心分離を利用しない精子選別」:メルマガ

9月のメールマガジンをお送りします。

今回のテーマは遠心分離を利用しない精子選別です。

遠心分離による精子への影響

皆さまは普段、運動精子を回収する際どのような方法で行っていますか?

運動精子の選別方法としては、密度勾配法swim up法(遠心分離後swim up)など、遠心分離を利用する方法がありますが、遠心分離によって精子が大きな重力を受けることから、精子DNAの断片化など精子に物理的な損傷が加わる懸念があります。

精子DNAの断片化とは、DNAの一本鎖または二本鎖が断裂をおこしている状態のことを指します。断片化してしまったDNAは自然に修復されることはないため、精子DNAの断片化がおこると、受精卵の発生に影響し、臨床妊娠や不育症、流産に影響を与えるという報告あります。

非遠心型精子選別デバイスの登場

そこで、遠心操作を加えることなく運動精子のみを回収することができる方法が研究されてきました。

現在日本で販売されている非遠心型の精子選別デバイスは、ミグリス(メニコン社)、ZyMot(ザイモート)スパームセパレーター(東機貿社)、レンズフックスパームセパレーター(ナカメディカル社)があります。

各製品の原理は下図のとおりです。

簡単に言うと、ミグリスはswim upしてきた精子を選別する方法。ZyMotスパームセパレーター・レンズフックスパームセパレーターは膜構造を用いて精子を選別する方法です。

一方、「膜構造を用いた生理学的精子選択術」は、先進医療として厚生労働省に認められています。

ミグリス(遠心フリー運動精子選別装置)開発の経緯:運動精子の選別方法としては、密度勾配遠心法など遠心分離を利用する方法が挙げられますが、遠心分離によって精子が大きな重力を受けることから、精子に物理的な損傷を与える懸念があります。一方、遠心操作を加えることなく、運動精子のみを回収することができる方法として、従来からMS法が提案されてきましたが、回収濃度や回収量が少ないなどの問題がありました。こうした課題を解決するため、MS法を一から見直し、簡便で高い回収効率が得られ、かつ精子にやさしい運動精子選別装置「ミグリス」を開発しました。(https://www.menicon-lifescience.com/miglis2.html)

膜構造を用いた生理学的精子選択術

病名(適応症):不妊症(卵管性不妊、男性不妊、機能性不妊または一般不妊治療が無効であるものに限る。)

内容:この先進医療は、特殊な膜構造をもつ装置を使って、精液から運動能の高い機能的な精子を選別する技術です。適応となるのは、不妊症で、これまでに着床や妊娠に至らなかったケースを繰り返している患者さんです。精液中の精子は遠心分離機を用いてこれまで選別してきました。この方法では、精子が物理的に損傷されたり、運動率が低下したりするケースが見られました。この先進医療では遠心分離は行わず、特殊な膜構造を用いた方法により、奇形精子や運動能の低い精子などと形態や運動能の良好な精子を分けることができます。この先進医療で選別された良好な精子を用いることで、顕微授精を行った受精卵の培養成績が向上し、着床率・妊娠率が上昇し、流産率が低下することが期待されます。

 引用元:https://www.senshin-dai-ichi.jp/med/technology/23032030

今回ご紹介した3つのデバイスは、原理の違いはありますが使用方法はさほど変わりません。

 デバイスに射出精液と培養液をいれて、静置です。

あとは、十分精子が回収するまで待つだけです。

 

 

非遠心型デバイスの使用メリット・デメリット

非遠心型の精子選別用デバイスを使用するメリットは、遠心分離が不要なので、物理的なダメージが加わることによる精子への損傷の影響に対する懸念がなくなる。

また、操作が簡単ですので、これまで精子処理にかけられていた人手を抑えることができます。

デメリットとして、遠心分離と比較して処理後の精子回収率の低下と精子運動率の低下が報告されています。

たしかに、非遠心型の精子選別用デバイスを使用すると、精子回収率と精子運動率の低下を感じることがありました。

そのようなときは、ぜひ「徹底的に精液を液化する」ことを心掛けてください。

ピペットではなく、鈍針を使用して徹底的に液化すると、精子回収率が改善した経験があります。

 非遠心型の精子選別用デバイスを使用することにより、精子のDNA断片化率は低下し、胚盤胞到達率・着床率・臨床的妊娠率が上昇したという報告があります。

 ART反復不成功例への対策となる可能性があります。

胚培養士実力認定会